計画研究
A01:根寄生植物が蓄積するフェニルエタノイド配糖体型天然物の生物学的意義
瀬戸 義哉
明治大学 農学部
専任准教授
研究分担者:西山康太郎(明治大学)、榎元廣文(徳島大学)
詳細を見る
本計画班では、他の植物に寄生しながら生育するという特殊な生活環を営む根寄生植物が生産する二次代謝産物をモデルに、その生物学的意義に迫ります。根寄生植物は、宿主となる植物の根に寄生し、宿主から水や養分を奪い取って生活します。国内での農業被害の報告はほとんどありませんが、アフリカ等の地域では魔女の雑草とも呼ばれるストライガが農地に侵入し、作物生産に甚大な被害をもたらしています。日本国内では、ヤセウツボという外来の根寄生植物が様々な地域で生育しており、潜在的な脅威となっています。代表者は、ヤセウツボが生産する代謝物の解析を行ってくる中で、本植物がフェニルエタノイド配糖体型の天然物をその体内に多量に蓄積していることを見出しました。これらの二次代謝産物は、健康増進作用に関する報告例が多く、ゴマの葉等にも含まれることが知られています。一方で、これらの天然物が、生産者である根寄生植物体内でどういった生物学的意義を有するのかは不明です。本研究では、これらフェニルエタノイド配糖体類の生合成経路を明らかにするとともに、独自にゲノム編集法の構築にも挑戦し、領域が掲げる天然物編集や、一細胞解析を基盤に、その生物学的意義の解明に挑戦します。
A02:植物病原菌におけるジャスモン酸生合成経路およびその生理機能の解明
佐藤 道大
静岡県立大学 薬学部
准教授
研究分担者:渡邊正悟(静岡県立大)
詳細を見る
本研究班では、植物に感染する微生物が生産する二次代謝産物に着目し、植物-微生物間における有機化合物を介した相互作用について研究を進めます。植物にはバクテリアから真菌まで様々な微生物が感染しています。これら微生物は、抗生物質などを含む様々な二次代謝産物を生産するポテンシャルを有していますが、感染した微生物が生産する二次代謝産物が、植物においてどのように作用しているのかはあまり研究されていません。本研究では、ある種の植物病原菌が生産する植物ホルモンのジャスモン酸に焦点を当て、病原菌由来のジャスモン酸が植物に与える影響を分子レベルで解明します。病原菌におけるジャスモン生合成遺伝子を改変(天然物編集)し、ジャスモン酸もしくはその類縁体がどのように機能しているのか、A04班が開発した解析技術を用いて明らかにし、その生物学的意義に迫ります。
A03:配糖体―アグリコン変換反応のダイナミクスから紐解くクマリン類の活性調節機構
杉山 龍介
千葉大学 大学院薬学研究院
助教
詳細を見る
本計画班では、葉緑素の合成、ひいては光合成に必須な鉄元素の土壌からの取り込みをポリフェノール性芳香成分であるクマリン類が促進するという現象、特に、クマリン配糖体の加水分解と再糖化の可逆的な変換サイクルと鉄取り込みとの関係に焦点を当てます。糖分子の付加は植物二次代謝産物グループの多くに見られる化学修飾であり、生物・非生物ストレスに応じて加水分解され、活性型のアグリコンとして生理機能を発揮するとみなされています。しかし、配糖体とアグリコンの変換における時間変動を空間情報と関連付けて視るための解析手法は確立されていません。構造が単純かつ蛍光性の天然物をモデルとすることで、一細胞分析や標的同定といった本領域の基盤技術を積極的に取り入れ、自ら動くことのできない植物が栄養素の取り込みにどう二次代謝を活用しているのか、その適応戦略に迫ります。
A04:一細胞レベルでの高解像度発現解析と代謝産物の標的同定による天然物生物学
白川 一
奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究科
助教
相原 悠介
名古屋大学
トランスフォーマティブ生命分子研究所
特任講師
詳細を見る
本計画班では、二次代謝産物の合成・修飾・蓄積場所の細胞レベルでの解析や、その作用標的の解明を可能にする天然物解析プラットフォームを整備し、A01-03班の研究を加速させます。植物が作る多様な二次代謝産物は、医薬品等として活用されているものの、一方でそれらを作る植物での機能はほとんどよくわかっていません。例外として、植物ホルモンが挙げられますが、それらも生合成後の多様な修飾や分解の生理的意義はあまりよくわかっていません。二次代謝産物の植物での解析が進んでいなかった理由として、二次代謝産物の合成・修飾・蓄積場所の細胞レベルでの解析や二次代謝産物の標的因子の同定が困難であることが挙げられます。これらの課題を解決するための既存、及び新規手法の整備・開発をA04班で行い、A01-03班の着目する二次代謝産物にこれらのツールを適用します。これらのツールをまとめて天然物解析プラットフォームと呼びます。特徴として、細胞生物学的視点による時空間解像度の高い発現部位の解析や、ケミカルバイオロジーの手法を駆使した汎用性の高い標的同定法が挙げられます。天然物解析プラットフォームは、広く他の天然物にも十分適用可能で、改良を重ね、より一般的な手法に発展させることで、天然物生物学の発展に大きく寄与すると考えられます。