領域代表

瀬戸 義哉
明治大学 農学部 専任准教授

 この度、学術変革領域Bとして、「天然物生物学」を発足することとなりました。素晴らしいメンバーと共に、新たな学術領域を開拓すべく、挑戦するチャンスが与えられたことを大変嬉しく思います。
 植物をはじめとする生物は、極めて多様な代謝物を生産し、それらを自身の成長制御や、他の生物とコミュニケーション等に利用しています。一方人類は古くから、生物が生産する代謝物、すなわち天然物を様々な形で、生活の中に取り入れてきました。しかしながら、これまで人類が活用してきた多種多様な天然物の中には、生産者にとっての生物学的な意義が不明なものが多く、天然物研究における一つの未開拓領域ということができます。
 私は、天然物化学をバックグランドに持ちつつ、ポスドク以降は、主に植物ホルモンを対象とした研究に従事してきました。その中で、植物が生産する多様な天然物が本来有する生物学的な意義に興味を持つようになりました。少しずつ形を変えた類縁体分子が多種類存在することもしばしば見受けられますが、生物が多大なエネルギーを要して生産するからには、それぞれの天然物に、生産者にとって重要な何かしらの生物学的意義が存在するはずです。一方で、天然物研究は、主に化学の中での研究領域として進展してきたこともあり、天然物が有する生物学的な側面については、体系的な研究が進められてきていないのが現状です。
 このような状況を受け、この度、天然物生物学領域を立ち上げるに至りました。本領域では、主に植物に関わる天然物を対象に、それらが本来有する生産者自身にとっての生物学的意義を解明することを大きな目標に掲げています。また、生物学分野の中に、天然物を対象とした領域「天然物生物学」を確立することを目指します。これまで天然物研究の主戦フィールドであった「天然物化学」領域は、化学の中における一つの研究領域として確固たる地位を確立してきました。今後は、我々が展開する「天然物生物学」領域が、天然物研究を支えるもう一つの柱として、生物学的な側面からの研究を強力に推し進めます。
 若い力で新たな研究領域「天然物生物学:Natural Products Biology」を世界に発信していきたいと思います!